マルチメディア信号処理技術の高度化に伴い,音声や画像等の実時間信号処理が実用化され,高精細TV、スマートフォンやデジタル家電といった形で、一般消費者の生活の中にも溶け込んできている.また,2020年東京オリンピックを目指す8Kスーパーハイビジョンの本放送に向けた技術開発も精力的に進められ, インターネットでの音楽やビデオ配信など,その可能性がますます広がっていく. マルチメディア信号処理技術は,マルチメディア時代にとって,欠かせない重要な技術の一つである. 当研究室では,マルチメディア信号処理に関する研究を多角的に行っている.
基礎理論に関する研究
- ディジタルフィルタ
- フィルタは,信号処理の基本的かつ重要な処理手段の一つである. ディジタルフィルタでは,ディジタル信号を対象とするために, 通常の線形処理に限らず,時変的且つ非線形処理も可能であり, 適応性に富む柔軟な処理が容易に実現できる.
- フィルタバンク
- フィルタバンクは,複数のフィルタを組み合わせたものであり, 各フィルタにより入力信号を幾つかの周波数成分に分割し, それぞれの成分を解析・処理した後,再び信号を合成する. 当研究室では,フィルタバンクの設計と構成を精力的に研究している.
- ウェーブレット変換と時間周波数変換
- ウェーブレット変換は,従来のフーリエ変換では不可能であった時間と周波数領域の同時解析が可能であり, 多重解像度空間において信号を解析でき,音声や画像処理などの様々な分野で幅広く応用されている. ウェーブレット変換は,従来のフーリエ変換と比較して基底の選択に自由度があり, 目的に応じてウェーブレット基底を選ぶことで性能が向上できる.
- グラフ信号処理
- ソーシャルネットワーク、センサーネットワーク、ニューラルネットワークや交通網等の様々なネットワークから集められた膨大な量のデータ, すなわち,ビッグデータの処理や解析は非常に重要な課題の一つである. ネットワーク上に存在する高次元データは,一般的に信号数が非常に多く, また複雑な構造を持つ. グラフ信号処理の目的は, ネットワーク上に定義されたデータをグラフ信号として捉え, 従来の信号処理理論から信号処理の概念や方法などをグラフ信号処理へ拡張し, グラフの構造を利用して膨大な量のデータを効率よく処理するアルゴリズムの開発である.
応用に関する研究
- 静止画像圧縮と動画像圧縮
- ウェーブレット変換の最も成功した応用例の一つは静止画像圧縮である. 静止画像圧縮の国際標準JPEG 2000に,ウェーブレット技術が既に取り入れられている. 当研究室では,高ダイナミックレンジ(HDR)画像を中心に,JPEG 2000を利用した効率の良い符号化手法を研究している. また,ウェーブレット変換は動画像圧縮にも応用され, 国際標準Motion-JPEG 2000では各フレームをJPEG 2000で圧縮している. 更に,フレーム間の相関を利用して圧縮を行うために, 時間方向にもウェーブレット変換を適用する研究が行われ, 当研究室でも,フレーム内と時間方向を併せた3次元ウェーブレット変換を用いて, 更なる圧縮性能の向上を目指して研究している.
- ノイズ除去とフリッカー低減
- 信号に雑音 (ノイズ) が混入する場合がしばしばある. その雑音を除去して信号のみを抽出することが必要である. ウェーブレット変換の応用として,ランダムノイズの除去を目的とするウェーブレット縮退法がある. 当研究室では,ウェーブレット縮退法をMotion-JPEG 2000のフリッカー低減に応用する研究を行っている.
- 画像フュージョン
- 画像フュージョンとは,複数の異なる情報を持つ画像を合成して, 全ての情報を統合した一枚の画像を作ることである. 例えば,複数の画像からピントの合っている領域を集め,すべての領域にピントが合った一枚の画像を合成する. 近年,医療画像や多重センサーの使用により, 画像フュージョンはますます重要になってきている. また,高ダイナミックレンジ(HDR)画像は,現在普及しているカメラの多くでは, 撮影できないため,露出の異なる画像から合成する必要がある. 当研究室では,動きを含む複数のLDR画像からゴーストフリーなHDR画像の合成法について研究を行っている.
- 眼底画像の血管抽出
- 眼底画像は,動脈静脈を体外から直接見ることができる唯一のものであり, その血管の状態から全身,特に脳血管の状態を推定することができ, 白内障や緑内障,糖尿病網膜症,動脈硬化症,高血圧症などの診断ができる. しかし,健康診断の眼底画像は膨大な量であるため診断するのに時間がかかる. そこで,医師の負担を軽減するために眼底画像の診断を画像処理により自動化する 医師の診断支援システムを構築することが必要である.当研究室では, 眼底画像から血管を抽出する手法について研究を行っている.